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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)154号 判決 1969年5月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人矢留文雄の上告理由第一段第一点および第二点について。

訴外光弦建設株式会社の設立にあたつては、天草慶一が他から調達した一〇〇万円をもつて発起人らの引き受けた株式払込金に充当し、同会社設立の資本金の払込にあてた旨の原判決の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。

原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二段第一点および第二点について。

商法一九三条、二六六条ノ三の規定の趣旨は、発起人が会社の設立に関し任務を怠り、あるいは取締役が悪意または重大な過失により職務を行なつた場合には、発起人または取締役は、その任務懈怠あるいは悪意または重大な過失と相当因果関係ある第三者に生じた損害を賠償しなければならないというものである。ところで、上告人は、第二審において、被上告人は訴外会社の設立に関し発起人として悪意または重大な過失によりその任務を怠つたものであるから、商法一九三条により訴外会社との取引から生じた損害金四一万円の支払を求める、かりにしからずとしても、被上告人は訴外会社の取締役として商法一八四条一項および二項による調査報告をなさず、同条三項による検査役選任もなさなかつた等被上告人は重大な過失により任務を懈怠し、訴外会社の経営を危くし、上告人に損害を与えるに至つたものであるから、商法二六六条ノ三前段の規定により訴外会社との取引から生じた損害金四一万円の支払を求めるというものである。右上告人の主張によれば、結局、被上告人は発起人として、あるいは取締役として、重大な過失により訴外会社の設立手続の調査を怠つたものであることを理由として所論の条文に基づき損害賠償を求めるというのであるから、この主張は、第一審において上告人のした訴外会社設立のための資本金一〇〇万円の払込を全くせず、そのため訴外会社の資本が充実せず、それによつて上告人が四一万円の損害を受けたとの主張と関連せしめなければ、主張自体理由なきに帰するものといわなければならない。したがつて、原審が、上告人の主張を右のとおり関連せしめ、それにつき判断したことは相当である。そして、原審が、前記のとおり、訴外会社の設立の資本金一〇〇万円は適法に払い込まれたと認定判断したこと前記のとおりである。そうとすれば、訴外会社はその設立にあたり資本が充実されたものというべきであるから、上告人主張の任務懈怠の点について判断するまでもなく、上告人の主張は理由がないというべきである。したがつて、上告人の請求を理由がないとした原判決の判断は正当であり、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

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